台北のドキュメンタリーフェスティバル参加報告~2019 Best of INPUT 世界公視大展精選~「暗黒告白」

Unearthing Taipei vol.3 (ご無沙汰しすぎました(笑))
ドキュメンタリーを見て、感じたこと、考えたことをまとめました。楽しい投稿ではないので、気になる人だけ読んでください。
~わたしの人生とわたしが暮らす社会は不可分であるということ~ 2019 Best of INPUT 世界公視大展精選 「暗黒告白」

※Unearthing Taipeiでは、日本の旅行ガイドブックやおススメスポットを紹介するサイトにさえ載っていないような、台北の穴場スポットやディープなイベントを、個人的な趣味、嗜好に基づいて「unearth 」(発掘)していきます。 場所の歴史や人生の物語、社会問題など、ものごとの核心部分はいつも見えないところに埋もれています。この連載はそういった深層に眠る核心をunearthすることに意義を見出しています。

以下、本文

正面に堂々と構えるレンガ造りの建築が趣を感じさせる台師大のキャンパス。日曜日の今日、そんな師大のキャンパスが大勢の一般人で賑わっていたのは、日本語能力試験の試験会場だったからという理由だけではない。正面右の講堂では、台湾のテレビ局、台湾テレビ公視主催のドキュメンタリーフィルムフェスティバル「2019 Best of INPUT 世界公視大展精選」が行われていたのだ。今回の記事では、このフィルムフェスティバル最終日で上映された4本のドキュメンタリーについての感想をまとめ、それを踏まえたうえで、本イベント自体が提起するメッセージを、テーマ設定「暗黒告白 Dark Confessions」の狙いに触れつつ、考察の射程に入れていきたい。

最初に簡単にこのイベントの全容を明らかにしておく。
今年度のテーマ「暗黒告白 Dark Confessions 」に基づいて世界中から精選された計12本のドキュメンタリー作品が、11月29日から12月1日までの3日にわたって上映された。
12本のドキュメンタリーは、5つの単元として以下の通り、分類されている。
「開幕単元:強国黒幕 THE DARK SIDE OF SUPERPOWERS」
上映作品
 ・CRACKDOWN: THE RULE OF LAW IN CHINA
 ・DOCUMENTING HATE: NEW AMERICAN NAZIS
「第二単元:一国二世界 ONE COUNTRY, TWO WORLDS」
上映作品
 ・FIRST CONTACT
・CHILDREN OF THE BELGIAN-CONGO
・TENGO-CHAN
「第三単元:毒家真相 UNVEILING TOXIC TRUTHS」
上映作品
 ・SYNTHETIC TURF, DAMMED PITCH
・NEWS DESK: WE'LL BE THERE-THE JOB OF DEATH
・GHB UNRAVELLED
「第四単元:科技抗暴 TECH-SAVVY CIVIL RESISTANCE 」
上映作品
 ・THE PEOPLE ON THE STEPS
・ON THE SPOT: SMART WORLDS-TECH MONKS
「閉幕単元:黒暗之光 LIGHT IN THE DARK」
上映作品
 ・A WORLD OF BOISTEROUS SILENCE
・BLIND FLYING

今回、わたしが見たのは最後の4本のみである。
あまりにも長くなりそうなので、この投稿では第四単元の1本だけ記す。残り1本と第五単元の2本は投稿を分けて紹介する。

THE PEOPLE ON THE STEPS
2017年、10月1日に行われたカタルーニャ独立を問う住民投票当時に起きた市民と警察との衝突について、市民たちがスマホで収めていた現場映像を、市民たち一人一人の証言と照らし合わせながら、事件の真実に迫るドキュメンタリー。
住民投票当日、スペイン政府は、自治的に投票を行うこと自体が違法だとして、警察による実力行使で投票所にある投票箱を強制撤収しようとする。その思惑を事前に把握した市民たちは、前日の夜中から投票所である学校に待機し、警察が学校に入ってこれないように、正門に人の壁をつくり、さらに、投票会場に通じる唯一の階段に座り込む作戦を講じた。
そして、投票日当日、全身武装した警官隊はやってきた。人の壁のため、正門から入るのが不可能だと気付くと、サッカーコート側の小さな門を物理的に破壊し、学校になだれこんだ。市民たちは第二の人の壁を作って、警官隊の侵入に応じるが、警官隊は強引に腕や肩、足をつかみ、引きずり、暴力的に排除しようとする。階段に座り込む市民たちに対して、全身武装の警官たちの暴力は更にエスカレートする…

このドキュメンタリーで注目すべきポイントは2つあると思う。
1、多くの市民たちが、警官隊が無抵抗な市民たちに排除するのに必要以上の暴力を行使した状況をスマートフォンで克明に記録していたということ。
2、そのような決定的な証拠があるにも関わらず、警官隊による暴力の行使があったという真実は消しかけられたということ。ある大手メディアの報道では、警官隊は全く暴力的な手段に訴えることはなく、投票箱を撤収するという目的遂行のためだけに必要なことだけを行ったという明らかに権力に加担し、事実を歪める報じ方をしたということ。さらに、自分が警官隊にされた暴力を自らのSNSで発信した女性のSNSアカウントには大量の批判コメントが殺到した。それらの多くは、「どうせ、誇張しているだけだろ」という内容のものだった。

この2点を総合すると、スマートフォンの普及、つまりテクノロジーの発展は、誰でも実際の状況を映像として記録し、一昔前ならありえない速さで、世界中の人に圧倒的な規模で、周知させることができるという強力な権力を監視するツールを手に入れたが、そのことを楽観視できるほど、十分な希望の光ではないということだ。
権力と人間の敵対感情は、目に見えて明白な事実でさえ、蓋を被せ、自分たちに都合のいいシナリオをでっちあげ、人々の認識に映る真実を「コントロール」することすらできる。

※Unearthing Taipeiでは、日本の旅行ガイドブックやおススメスポットを紹介するサイトにさえ載っていないような、台北の穴場スポットやディープなイベントを、個人的な趣味、嗜好に基づいて「unearth 」(発掘)していきます。 場所の歴史や人生の物語、社会問題など、ものごとの核心部分はいつも見えないところに埋もれています。この連載はそういった深層に眠る核心をunearthすることに意義を見出しています。