読書日記2 「ナラティブと共同性 自助グループ・当事者研究・オープンダイアログ」 野口裕二著 part1

 

本書はナラティブ・アプローチがどのように発展し、どのような領域でその可能性が検討されてきたか、そしてその特徴と限界、今後の展望を論じている。筆者の言葉を借りると、

 

(一部抜粋)ナラティブ・アプローチはどんな課題に取り組み、などんな成果を生み出してきたのか。何をしてきて、何をしてこなかったのか。そしてこれから何ができるのか。

 

ナラティブ・アプローチとはなにか?筆者によると、ナラティブ・アプローチとは90年代に家族療法の領域で始まった新しい臨床実験の方法「ナラティブ・セラピー(Narative Therapy)」として発展したもので、そのような様々な斬新な実践の現在の総称である。

 

現在では、ナラティブ・アプローチは臨床の分野だけでなく、社会学の領域にも応用されている。

筆者は4つのナラティブの持つ役割及び機能について紹介している(p39,40,41)以下の4つである。(1)現実の組織化作用と制約作用、(2)ドミナント・ストーリーとオルタナティブ・ストーリー、(3)セオリーとナラティブ、(4)セルフ・ナラティブ(自己物語)による自己の構成 

 

その中から、最後のセルフ・ナラティブによる自己の構成についてまとめてみたい。

ナラティブ・アプローチにおいて「自己」は「自己物語」として存在している。「自分とは何か」という問いに答えるには、自分の経験に基づく自己物語の形成抜きにはありえない。これがナラティブ・アプローチから導かれる自己論だ。人は自らの人生において一貫性のある自己物語がうまく作れないとき、不安定になる。自らの経験が自己に反映されてないと感じるからだ。自己物語の書き換えは経験に基づくが故、容易ではないが、物語の文脈が変われば、筋の通ったそれまで見えてこなかった自己物語が現れる可能性がある。このように筆者は自己物語に多様な書き換えの可能性について示唆している。(p40,41)